千葉の谷津に耕作放棄田の再湿地化を訪ねる

保全活動

11月13日(木)SAVEJAPANプロジェクトのイベントで千葉県成田市に行ってきました。ずっと見たかった西廣淳さんと地域住民や企業とで行う湿地再生の現場、今回西廣さんの案内で訪ねられるとの案内に、1も2もなく万難排して参加することにして、当日朝成田行きの飛行機に乗りました

このSAVEJAPANプロジェクト、しめっちネットの活動で助成をいただいていて、今回キックオフミーティングということで呼んでいただいたという、ありがたいお話です。

まずは富里市で里山の保全活動をしている「おしどりの里を育む会」の方々のフィールドにお邪魔しました。

1.谷津って、どんなところ?

ここは谷津(谷戸)と言われる地形で、台地が削れて出来た谷で、古くから水田として利用されていた。台地から湧く水が年中安定して得られ、水は澄み、洪水も無く、ため池も作りやすい谷津は、稲作の適地であった。

緑の部分が「おしどりの里」台地に食い込むように、いくつもの「谷津」があるのが分かる

現在水田が作られている広い平地は、大きな川に面している「氾濫原」や低湿地帯で、洪水のリスクが大きく、また灌漑工事が必要であったりで、高い土木技術と大型機械による工事によらなくては水田を作れない。しかし、大規模に稲作が可能なため、江戸期の新田開発が行われ、更に機械化による耕作に向いているため、昭和の高度成長期以降、次々と水田が開発されていった。
そのため、小規模で人力に頼る谷津の田んぼは使われなくなり、ここでも50年ほど前くらいから耕作放棄され、雑草が生い茂っていたとのこと。

2.谷津のメリット

しかしこの「谷津」は、大規模な土木技術が無くても、少人数の村で安全かつ安定して稲作ができ、古来より日本の稲作を支えていただけではなく、以下のようなメリットがあった。

① 多様な生き物のすみかになる(生物多様性が高い)
 谷津は湧水や小川が流れ込む“湿った谷地形”なので、
 水生・湿生・陸生の生き物がモザイク状に暮らせるのが最大の特徴。
 トンボ類、カエル類、水鳥(渡りの“エサ場”にもなる)、湿生植物

② 水をため、ゆっくり流すことで洪水を和らげる(治水機能)
 谷津田は自然の谷に段々状に作られているので、大雨のときに水をためて流出を遅らせる。
 そのため下流側の洪水リスクを軽減する。
 台地からの湧水を受け止めて地下水を涵養(かんよう)する。

③ きれいな水をつくる(浄化機能)
 田んぼの土と微生物が、
 ・窒素・リンなどの栄養塩を吸収
 ・水を濾過してきれいにする
 ・湧水の流れを安定化する
 など、簡易湿地のような水質浄化機能を発揮します。

④ 農の営みと自然が結びついている(文化的価値)
 谷津周辺は古くから集落・農業が成立していた。

3.谷津田の再生と再湿地化の現場

お訪ねした「おしどりの里」では、50年放棄されて雑草が生い茂っていた水田で、残っていた畦や水路を補修して、湿地に戻す活動をしてきたとのことでした。

排水路に(西廣さんが)堰を作って水を引きいれている
水を引き入れている堰の様子
解説する西廣淳さん
最上流部の再生湿地
奥の方では竹を伐って炭づくりをしていました
周辺部では至る所から湧水が出ています
湿地の中の道
水路で沢ガニを見つけました!
台地に出ると、広がる人参畑 かつての中沢城址とか
台地と谷津の間はホッとする雑木林
「おしどりの里」の湿地再生地を見おろす①
「おしどりの里」の湿地再生地を見おろす②

4.再湿地化の意義

ここで放棄水田の再湿地化を進める意義は、もちろん上述の水田だったころのメリットを取り戻すこともそうだが、さらは関わっている地域の方々や西廣さんはじめ研究者そして地域の団体や企業や行政が新たなコミュニティを形成していっていることだと思った。

つまり自然の働き(いのち、水、気候、文化)を取り戻し、人と地域の未来を強くする仕組みづくりに他ならない。

再湿地化によって、
生物多様性の回復(湿地は“いのちの交差点”)
水の保全(地下水・水質・洪水調節)

さらには、
気候変動への対応(CO₂削減 & 適応策)

そして
地域文化・暮らし・景観の再生
人の学び・福祉・体験価値の創出

おしどりの里を育む会の方が「70歳からの楽しみの場が出来て、毎日幸せです」「小学生の時にこの横の道を通って学校に通っていて、その道すがら捕まえていたトンボも戻ってきました」とお話されていた。私もそんな楽しい居場所づくりをしていけたら、本当に良いなぁと思うなぁ。

<活動紹介>
おしどりの里を育む会
おしどりの里清掃活動・希少植物調査の実施

本気で、そんな場所を探していきたいと思う。仲間とスゲ田を作り、マコモダケを育て、子ども達とたくさんの生きものを観察し、ヒシ御飯やセリ鍋を食べ、星を眺めて焚火を囲み、酒を酌み交わす。そんな時間は、それほど残されていないよなぁ…。がんばろ

5.西廣さんのお話「何が良かったか」

この「おしどりの里」でも、西廣さんのような研究者のほか、ホタルの会や富里市などの行政そして企業などが関わって、さまざまな活動を展開している。他のいくつかの再湿地化を進めている谷津でも同様とのことで、このことについて西廣さんは「目的を共有する必要は無く、違った目的を持った人達を寛容に受け入れることで、大きな流域となる。」とお話されていた。

産官学民で取組む谷津再生・活用の現場

「寛容に受入れて進めること」が大切だって、良く分かる反面、なかなか難しいこと。でもそういうことができる歳になってきたとは思う。良い仲間づくりが、これから一番大切になるんだろうなあと思う。

このあと全国から集まったSAVE JAPAN助成を受けた団体でワークショップと懇親会を行って、交流を深めたので、そのうちまた、流域が大きくなるように、関わっていく人がいるんだろう。

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桃色バケツ倶楽部




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この記事を書いた人

子どもの頃に友だった川や虫、心に闇が迫ったとき癒やされた森や海、そんな宝物の自然環境を子ども達に残すため、大切な仲間と繋がって、楽しく笑い学びながら活動しています。孤軍奮闘・暗中模索とも伴にありたいな。
森が好き、海辺が好き、湿地が好き、人と一緒が好き、1人も好き、焚火が好き、星空が好き、純米酒が好き。

  ===「環福連携」===
【福祉/療育/支援×環境保全利活用】
SDGs 、自然体験や自然再生、皆が関わり地球も人も元気に!
自然/植物の専門家として、
お手伝いしてます。

NPO法人 人まち育てI&I理事長
NPO法人 楽園プロジェクト理事長
はまひるがおネット代表
しめっちネット代表
手稲さと川探検隊局長
北海道科学大学非常勤講師
落語~湿原亭元五郎
技術士(建設部門、建設環境)
森林セルフケア・コーディネーター
札幌市環境教育リーダー

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